さて、増田渉文庫の全容であるが、その総蔵書冊数約15,000冊。そのうち、ちょうど3分の1の5,000冊が我が国の刊本。また、3分の1にあたる5,000冊が中国の刊本。以上の10,000冊がいわゆる活版本といわれる活字印刷による洋装本である。そのあと残りの5,000冊は木版印刷による、即ち我が国では明治以前の刊行、中国では民国初年以前の刊行に係る、いわゆる和装本(線装本)。それが日本と中国のもの合わせて約5,000冊、という内訳になっている。個人の蔵書量として15,000冊という数字は群を抜く厖大さであり、先生が我が国における有数の秘書家のお一人であったといい得られるのである。
先生の学問はもとより博大であったが、そのもっとも興味をむけられた研究課題が、またいくつかあった。先生の蔵書はその主題にそって収集に力を致されており、どの分野にわたっても、きめの細かい、配慮の行き届いた、さすがは本を愛した人、本を真に理解した先生ならではの収集と感嘆させられる充実した内容に富んでいるのである。今はわずかにその一端を紹介するに止まるが、この文庫の蔵書の特色について、その一、二例を次に書いてみることにする。